痛みの医療への社会的責任をはたすための認定特定非営利活動法人

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■Q&A


質問:慢性疼痛における生物心理社会モデルとはどのようなものですか。

回答:
腰痛、首すじの痛み(肩こり)に代表されるような運動器の痛みは、なかなか治りにくい長引く痛み=「慢性疼痛」に陥りやすいといわれています。近年このような、長引く痛みの原因は、従来病院で“診断される病名”に必ずしも当てはまらないのではないかと考えられるようになってきています。
例えば、長引く腰痛の場合、「腰痛の原因」に対する診断名として、レントゲンやMRIから判断される「椎間板ヘルニア」や「腰椎すべり症」という病名が、痛みの原因に“必ずしも当てはまらない”という考え方です。

近年、世界中で、このような慢性疼痛の原因を様々な角度から分析しようとする研究が行われています。
そこで痛みの原因を、従来病院で診断されるような体の異常(生物学的要因)と、年齢や環境、社会的立場まで考慮したストレス環境(心理社会的要因)の混在した状況として捉え、これらが複合された状態をその人の痛みの状態として考えるのが「生物心理社会モデル」という考え方になります。
つまり、この場合、痛みの原因の候補は、骨、筋肉、関節、内蔵、神経、など損傷及び生体内での免疫反応、炎症、血流変化、心拍変動、といった生物学的要因のほかに、やる気、抑うつ度、健康や生活への不安、家族生活のストレス、学校・仕事場のストレス、などの心理社会的要因が混在したものとして考えられ、より多面的な対応が必要となってきます。

では、このような複雑な要素が絡み合う“生物心理社会要素の混在した痛み”に対してどのように対応していけばよいのでしょうか?
国際疼痛学会(IASP)では、このような運動器の慢性疼痛への対処法として、「学際的アプローチ」を推奨しています。
学際的アプローチとは、視点の異なる複数科の立場の医師(整形外科、麻酔科、脳外科、精神科など)及び看護師、理学療法士、作業療法士、臨床心理士、ソーシャルワーカーなどがチームとなり対応していく取り組みをさします。

また「学際的アプローチ」の治療方法としては、「認知行動療法」及び「理学・運動療法」の組み合わせが中心になります。

最後に一つの研究を紹介します。
腰椎椎間板ヘルニアに対する手術後に腰痛が残存することがありますが、この腰痛に対しては、「腰椎固定術」が効果的な治療法であることが判明しており、現在でも主流な手術治療法として行われています。
そこで、Brox博士らは、腰椎椎間板ヘルニアに対する手術後の腰痛が1年以上続いている「慢性腰痛症例」を対象に、従来の手術による腰椎固定術治療または、手術を行わない「認知行動療法」と「理学・運動療法」の組み合わせ治療の2つの治療法に振り分け、それぞれの治療1年後にその成績を比較しました。その結果、どちらの治療法でも改善が得られましたが、改善度に関しては2つの治療に差は見られませんでした(Pain. 2006 122:145-55)。